2018年 06月 30日
駅シネマ同好会で『ガザの美容室』を観ました
小林晃一 (1961年政治経済部卒)
嶋沢伶衣子(1981年文学部卒)
*6月24日に、駅シネマ同好会の第46回映画鑑賞会で『ガザの美容室』を観ました。
今回は、前列左より(敬称略)小林晃一・嶋沢伶衣子・牛島康行・遠山茂幸。
後列左より(敬称略)河合甚吉・鈴木一嘉・徳竹勝治・江後田正明・古澤潤一郎の9名が参加しました。
皆さま、ありがとうございました (^^♪
♣『ガザの美容室』
監督・脚本:タルザン&アラブ・ナサール(ガザで生まれ育った双子の監督)
製作国:パレスチナ・フランス・カタール合作
キャスト:
ビクトリア・ヴァリッカ~クリスティン(美容室経営者)
ネッリー・アブ・シャラフ~ナタリー(クリスティンの娘)
マイサ・アブドゥ・エルハディ~ウィダド(美容室の助手、彼氏がマフィア)
タルザン・ナサール~アハメド(ウィダドの彼氏、マフィア)
ヒアム・アッバス~エフティカール(離婚調停中の主婦)
マナル・アワド~サフィア(夫の暴力に悩む薬物中毒の主婦)
ダイナ・シバー~サルマ(結婚直前の女子)
リーム・タルハミ~ワファ(サルマの母)
フダ・イマム~サミーハ(サルマの義母)
ラニーム・アル・ダウード~マリアム(サミーハの娘)
ミルナ・サカラ~ゼイナブ(敬虔なムスリム)
サミラ・アル・アシーラ~ファティマ(臨月の妊婦)
ラヤ・アル・カハテブ~ルバ(ファティマの妹)
ウイダド・アル・ナサル~サウサン(離婚歴のある女性)
♣ 『ガザの美容室』あらすじ(Spoiler Alert!!)
舞台は パレスチナ自治区ガザ。クリスティンが経営する美容室は、メイク/パーマ/ヘアカット/マニキュア/眉毛ケア/美容脱毛/結婚衣装の着付け等の順番を待つ 女性客で賑わっていた。皆それぞれ世間話に興じ、午後の時間を過ごしていた。だが突然 ハマスとマフィアの戦闘が始まり、小さな美容室は 戦火の中に取り残され、彼女たちは監禁状態になってしまった…!
♣ 『ガザの美容室』感想
密室の美容室で順番待ちする女性たちの 赤裸々な会話から、それぞれが抱えている事情が見えてきて、興味深かったです。中盤から銃声や爆砲が轟いてきたので、私は、外の世界を想像しながら観ました。極限状況の緊迫を観客に追体験させるような映画で、ワン・シチュエーションの”生の舞台”を観ているような臨場感がありました。
…この作品の評価や解釈は、観る人によって違ってくるのではと思いました。外からの攻撃だけでなく、ハマス対マフィアの「ガザ内部」の抗争にも晒されている市民は、八方塞がりになっている様に見えました。戦闘が起こっても美容室で綺麗になって平常心を保とうとするガザの女性たちに 一縷の希望を感じたりもしました。ウィットに富んだ台詞やメタファーも多くて、色々と考えさせられました。
…『ガザの美容室』を観る前に、私は 中東4000年(5000年?)の歴史をおさらいしなければ と思いましたが、間に合いませんでした。映画の後のお食事会で、先輩方が要点をレクチャーして下さったのでとても助かりました。(中東の歴史をちゃんと勉強しなかったので、せめてもと思って「代々木上原のモスク」に行き、ヒジャブを被って礼拝の様子等を見学してきました ↓)
♣ 『ガザの美容室』 小林晃一さん(1961年政治経済部卒)の感想
古代ローマ帝国によってカナンから追放されたユダヤ教徒は、世界中に散らばって国を持たない民族(ディアスポラ)として
第二次大戦末期まで生きてきた。だが、ナチスドイツによるホロコーストの悲劇に触発され、大戦後、国際社会はユダヤ人に
「イスラエル」と言う国を与えることにした。だがイスラエルが建国された地は、もはや神がユダヤの民に約束した
「乳と蜜の流れるカナン(旧約聖書)」ではなくて、イスラム教徒パレスチナ人の住むところだった。
爾来、パレスチナ人とイスラエルの争いは今日まで続いている。特にその所属をめぐって4度の中東戦争が行われた
「ヨルダン川西岸地区」と「ガザ地区」に関しては、いまだに紛争が絶えない。だから『ガザの美容室』と言う題名を聞いた時、その映画のテーマは「イスラエル対パレスチナの抗争」だろうと推測した。ところが、これが違っていた!
1993年クリントン米大統領の仲介で、パレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長とイスラエルのベギン首相は、
ノルウエーのオスロで歴史的な「オスロ合意」を締結した。合意の内容は、イスラエルはパレスチナ人が自治政府を作ることと
一定期間後に国家として独立することを認める、一方パレスチナ側もイスラエルを正規の国家として認める、というもの。
この合意が履行されれば、パレスチナには恒久的な平和が訪れると考えられ、アラファトとラビンはノーベル平和賞を受賞した。
ところが、このオスロ合意を認めない勢力が双方に居た。ラビンは、オスロ合意を裏切り行為と見做すイスラエルの
テロリストによって暗殺され、アラファトが率いていたPLOは二派に分裂した。一つは、アラファトの遺志を継ぎ、
「パレスチナ自治政府」を運営しようとする「ファタハ」であり、もう一つは、イスラエルの国家としての正統性は絶対に
認めない、ユダヤ人を全員パレスチナの地から追放する為には、可能な限りの武力行使を厭わないという「ハマス」だ。
現在、ヨルダン川西岸地区は「ファタハ」による自治政府が統治しており、ガザ地区は武闘主義の「ハマス」が支配している。
映画『ガザの美容室』の宣伝文句に「オシャレする、メイクする、たわいないおしゃべりをする、たわいない毎日を送る、それが私たちの抵抗」とある。だが このキャッチコピーは 平和ボケの日本人が書いたものだと思う。
美容室の中で交わされる、一見何のたわいないと思われる女性たちの会話は、よく注意して聞くとひと言ひと言に、パレスチナの地で繰り広げられてきた長い長い悲劇のドラマを暗示するメッセージがしっかりと込められていることに気が付く。
例えば、一人の女性が腰痛なので エルサレムの病院に行けばいい という話が出るが、ガザから同じ国の中のエルサレムに行くには、ハマスの検問所、ファタハの検問所、それにイスラエル官憲のチェックを通らねばならず、それを通過できたと思ったら、
家族にテロリストがいるという理由で収容所に入れられてしまったという「世間話」が出て来る。
「世間話」が、ガザの支配者ハマスに対する不満に及ぶと、一人の女性がもう一人に向かって「アンタたちがハマスに
投票したからハマスが支配者になってしまった」と言い出す。この会話で、ハマスの統治がガザの市民に好意を持って
受け入れられてるわけではないことが分かる。
美容室の外では激しい打ち合いが行われるているが、その打ち合いは、イスラエル軍によるものではない。ハマスの統治に不満を持つ「反抗分子(マフィア)」を殲滅するためのハマス軍団による大規模攻撃だ。だが、マフィアは唯のヤクザではない。実はファタハとつながりがあって、エジプトからの生活物資の密輸入を取り仕切っているグループでもある。要するに、美容室の外で行われている戦闘は、イスラエル対パレスチナの戦闘ではなくて、パレスチナ人同士の間の戦闘なのだ。パレスチナ人同士がこんな惨烈な殺し合いを日常的にやってることは、日本のマスコミは絶対に報道しない。
美容室の店主はどうやらロシア人らしい。なぜロシアからわざわざこんな物騒なところにやってきたのだろう?ロシア人と言ってもロシアのイスラム教徒なのだろうか?女性の中に一人肌の黒い女性が混じっている。端正な顔つきだが、この女性はアフリカのイスラム教徒、とすればスーダン人だろうか?
また美容室の女性のなかには結婚間近の女性がおり、更に今にも出産しそうな臨月の女性もいる。少し調べてみると、ガザでは220万人もの人口が溢れかえっていて失業率が45%にも上るのに、人口がどんどん増えているらしい。何と女性一人当たりの平均出産率が4人(日本では1.3人)にもなるとのこと。人間はひどい混乱の中でも子ども生むことはやめないのだ。
英国のエコノミスト誌はガザについて、「ガザは、州でなく国でもなく牢獄だ」と報じている。そして「イスラエルも、エジプトも、そしてパレスチナ自治政府も責任を負おうとはしない、世界中の誰からも無視された人間のゴミ溜め」とまで書いている。
そんな所にも美容室があり 人間の日常生活がある。そこで交わされている日常会話は、けっして「たわいないもの」などではなく、何気ないひと言ひと言に、平和ボケの日本人には実感の及ばない、胸がえぐられるような絶望的なメッセージが込められている。
以上が 映画鑑賞後の私の感想です。(小林晃一)
💛これからも皆さまと一緒に映画を観て理解を深めたり雑談を楽しみたいので、よろしくお願いします。
初参加の方も大歓迎ですので、お気軽にお問合せ下さい。
駅シネマ同好会:嶋沢伶衣子(しまざわ れいこ)
Tel: 080-1123-8222
E-mail: cosmo_reiko_0915@yahoo.co.jp
( 完 )